認知症高齢者の方としっかり向き合えるケアをするためには?





ケアの原則

実施上の基本的態度
認知症患者が、言葉を最終的に失っていく可能性が高いことや、自己価値が低下しがちなことを考慮し、以下のような基本的な態度を、ケアの大原則とし、心してほしいと思います。

基本1
ゆっくりとしたテンポで話す(時間の流れはゆっくりと)
ゆっくりとした言葉や行動のテンポは、高齢者の老化や、認知機能低下によって生じた聞き取りの困難さや、急激な変化に対する応答困難な面を補ってくれるでしょう。例えば、ゆっくりと3回繰り返す。(1回目は話しかけていることへの気づき、2回目は会話を聞く、3回目は会話の内容を確認し、その返事を考える)ことでコミュニケーションがとれる場合があります。

基本2
声のトーンを落とす
(音程は低めに)
認知症患者が不安や混乱に陥ったときでも、ケア者は落ち着いた雰囲気をもたらし、患者を落ち着かせることが重要です。声のトーンを落とすことでその雰囲気をつくることができます。ただし、挨拶の時には、明るい元気な雰囲気を大切にしましょう!

基本3
言葉ではなく、表情で確かめる
患者が返答したとき、本当にそう思っているのか、その表情を読み取りましょう、患者の苦しみは静かななかにも明らかに現れるものです。

ケアの原則①

尊重し、ありのままを受け止める

* ケアの原則1は、患者の人間性を尊重し、その方のどのような行動をも目の前にあるその人の行為として受け取ることです。カール・ランサム・ロジャースのクライエント・センタード(クライエント中心療法)にいう。「無条件の肯定的配慮」と「純粋性の一致」がこれを説明できる理論です。
* 目の前にある状況がどのような意味をもつのかわからなくても、病状をすぐに理解できなくても、事実をそのままにに知覚することです。否定的な感情を排し、相手への関心をもって、受容の次元にいたらないままでも、事実を感覚的に受け止めることです。このような態度は、相手へのこうあるべき、こうしてほいいという条件をもっていませんから、言い換えれば無条件ですから、どのような状況も受け止められます。
* また、ケア者が相手へ関心をもつだけのゆとりと、自分のことに埋没していない、相手への純粋なこころ、つまり、「まなざし」をもっていますから、関係を悪くすることはありません。

ケアの原則➁

「説明や行動の手順を繰り返し伝える」

* 認知症患者のほとんどが発症する症状として、記憶障害があります。記憶障害は、一度知り得た事柄を忘れてしまうことです。忘れたかどうか自覚することもありますが、他者に指摘されてもはっきりと自覚できないこともあります。
* 記憶障害のある患者の多くは、忘れてしまったことによる「自己喪失感」をもち、自信を失い、あるいは恥ずかしい気持ち、他者に知られたくない気持ちを経験しています。ですから、それをあからさまに指摘することは、ケアとしては全く意味をもちません。さりげなくフォローするようにガイドし、行動の手順を確かめるようなかかわりが重要です。
* また、言葉が理解でき、指示行動ができるあいだは、行動の「声かけ」があれば、多くの場合、自分のセルフケアを実施できます。「声かけ」は、単なる呼びかけではなく、気軽にサポートする。言葉によるガイドのことです。患者さんができるだけ長く、自立できているという気持ちを保持するためには、重要な原則です。

ケアの原則③

「感情に共感し、いまを明るく過ごす」

* カール・ランサム・ロジャースのクライエント・センタードにいう。「共感的理解」に近いものです。患者の「いま」よろこんでいる「さま」をありのままに受け取り、その「よろこび」を「ともにする」ことです。
* 人は一人遊びでも楽しむことはできますが、よろこびは一人では叶えられないことです。肯定的な感情の高揚であるよろこびは、生理学的にも心理学的にも肯定的な変化をもたらします。苦しみを遠ざけ、身体に活力をもたらします。喜ぶことが人生の幸福のイメージではないでしょうか。
* 認知症患者は、やがて人との関係が希薄になっていきます。しかし、残された能力で、可能なかぎりよろこび、そして、笑顔を作り出すことです。ケア者は、どのような困難な場面であっても、患者とともにユーモアをもつことができなければ、ケア行動を前向きに進めることは困難です。患者の明るい時間をつくることは、ケア者にとっても相互作用があると思います。

ケアの原則④

「適度に受け入れつつ、現実へゆっくりと導く」

* 認知症患者をありのままうけとめることも大切ですが、状況によっては、現実をゆっくりと説明したほうが良いこともあります。
* これは認知症患者へのかかわりの1つで、リアリティー・オリエンテーションという援助方法です。「いま」を「知らせる」ということです。
* 認知症患者は、目の前にある事実や自分の状況を正しく受け入れにくくなります。患者は、1週間前の日付に生きていたり、いまいるところが病院でなく自分の家であったり、結婚しているのに、学生気分であったり、時間と空間の認識に障害が出てくると、目の前にある「現実」を受け入れにくくなります。
* そこで、初期のころであれば、「現実」を教えることが効果的な場合があります。患者の病状をみながら、「声かけ」によって、「事実を伝えてみる」と納得してくれることがあります。患者の納得が得られる必要があるときに、活用できるでしょう。
* 現実検討力が低kあしているため現実を知らせるのですが、病状が進んでしまった場合は、現実をしらせることそのことが、意味をもたなくなることもあります。つまり、理解できたところで、さらなる患者の混乱を招くことがあるからです。

ケアの原則⑤

「できない部分だけを手助けする」

* 認知症患者の多くは高齢者ですが、高齢者は一般に身体機能が低下し、人によっては依存的な傾向になる場合があります。これは、「老化」によって、自分の自立能力が低kあした現実を受け止めきれないか、あるいは、機能訓練が面倒になって、ついケア者に頼りたい気持ちになるからです。
* しかし、ケア者は高齢者への一般的なケア態度として、できる限り自立した、すなわち、他者の力を借りないで、自分でセルフケアを行うよう支援することが重要です。他者の力を頼みにすることで、できていたこともできなくなったりすることがあります。それでは、自立のよろこびは失われます。いったん低下した自立能力を元通りに会fくすることはできませんが、ゆくりでも、困らない程度のことができればよいのです。お風呂にはいるときいは、衣類は椅子に座ってゆっくりぬいでよいわけで急ぐ必要はありません。靴をはくときはすわってゆっくり履けば良いし、歩行時は転倒しないように杖を使えばよいのです。
* 価値観を転換させること、何が重要かという優先度をケア者がはっきりと意識していることが重要です、最終的に、患者が自分でできたというよろこびが得られるように支援することが大切です。

ケアの原則⑥

「言葉でなく、表情でこころを伝える」

* 認知症は、手順や行動だけでなく、言葉もわからなくなることがあります。ひとが人と通じるのは、健康な人であれば言葉が優位です。しかし、赤ちゃんは言葉がなくても母親と通じています。もともと人は言葉をもたなかったのですから、言葉に依存する必要もないのです。言葉がなくても通じるのが、コミュニケーションです、コミュニケーションの語源からすれば、「こころとこころがひびきあう」ことがコミュニケーションです。
* 人の隣に人がいれば、知らない他人でも、「何か感じるもの」があります。そのメッセージを感じる能力を人は持っているのです。ですから、ケア者は、言葉に依存しない、うなずきや笑顔のような非言語的コミュニケーションや、声の調子や沈黙などのバラ言語によるメッセージによって、ケア者の励ましや承認のメッセージを送ることが大切です。
* このようなメッセージで患者に「安心」を提供することは、ケア者の「存在」そのものが、ケアとなっていることを示しています。「そばにいる」そのことだけで苦しみや和らぎ、患者の内的戦いを癒やし、励ますことができるのです。このようなケアはケアリングの基本のとされています。

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